実家は二人で住むには広すぎる
家はそれぞれのライフステージに応じて変わっていくべきだと思います。子育てを終えた世代にとって、家は夫婦二人で暮らすための”舞台”となります。セカンドライフの到来です。それでは使わない部屋をどうしたらいいのでしょうか。使わない部屋はそのままにして、使う部屋のみを使いやすくリフォームしてはいかがでしょうか。住まいのダウンサイジングです。
かつて、日本の住宅のことを、海外から「ウサギ小屋」と揶揄されたことがありました。しかしです。地球温暖化が進み、エネルギー需要がひっ迫している今日において、「小さく住む」ことはとても素敵なことだと思います。シンプルにコンパクトに、だけど、ちょっと贅沢でいいものに囲まれて暮らす。そんな暮らし方ができたら素敵だと思いませんか。そんな暮らし方こそ、まさに「ウサギ小屋リバイバルスタイル」だと思っています。
平屋が人気
前回のコラムで書いた通り、日本は地震大国です。地震に対しては、平屋が有利です。上に載る重量が軽ければ軽いほど地震力が低減されるからです。私も平屋に住みたいなと思っていましたが、土地と予算の制約上、建物は上へ延びてしまいました。
最近、平屋が人気だと聞きます。詳しく分析したわけではありませんが、高齢化社会の到来で、世帯人数が減り、建て替えるなら移動が楽で地震に有利な平屋に、となったのでしょうか。
一時期、「減築」という言葉を耳にしました。増築に対して減築、です。例えば2階建ての建物を減築して平屋にするというようなことを指します。でもこれは現実的ではないと思います。なぜなら工事がとても大変です。屋根をとって2階をとって、1階に小屋組みして屋根を載せる。その間、人が住めないばかりか、荷物も置いておけません。工期とコストばかりがかかってしまいます。それなら全部解体して平屋に建て替え、一択です。かつて増築した部分をとるのでしたら、無理に壊さずにそのままにしておけばいいと思います。
平屋化計画
建て替えをしないで平屋化する。これが平屋化計画です。そのためには、まずは2階を片付けましょう。2階はあるけれど空にして、できるだけ使わない。家族が遊びに来た時だけ使う程度にする。そして1階を今のライフステージに合わせて、必要なスペースだけをリフォームする。ここでは、耐震のこと、断熱のこと、バリアフリーのことをトータルで考えて、安心・安全で暮らしが向上するようにリフォームします。これを私は「アップライフリフォーム」と呼んでいます。エリアをしぼることによって、断熱改修も工事がしやすくなります。もちろんヒートショックや温度差による結露など、気を付けなければならない点もあります。
そうは言っても1階のスペースが足りないという時には…。かねてから、ここって本当に必要なのかなって思っている部屋が「昭和」の家にあります。応接室です。応接室って1階の割と大きなスペースを取っているにもかかわらずほとんど使われていません。このスペースをうまく利用できないかを考えてみてはいかがでしょうか。私はこの部屋の利用方法に一つ提案があるのですが、それは改めて別のブログで書きたいと思います。
平屋化計画で気を付けたいこと
耐震補強は壁を補強することと以前お話ししましたが、その際に壁の仕上げを一度外します。そうするとそこに断熱材を入れることができます。家全体を断熱改修することは大変ですが、アップライフリフォームであれば、限られたエリアの断熱改修ですみます。もちろんエリア内は断熱材で包み込むべきですので、耐震補強しない壁や床も剥がして断熱する必要がありますし、場合によっては1階天井も断熱します。
耐震補強に関しては、原則的には1階も2階も補強をすべきです。しかし、2階の耐震評点が極端に悪くない場合(0.7以上)は、私は1階のみの補強でもよいのではないかと考えています。その場合に気を付けなくてはいけないことは、2階の力を1階にスムーズに流れるようにしてあげることです。鉛直荷重(上方からかかる力)にしても水壁荷重(横からかかる力)にしても2階が受ける力は1階に流れて地面に開放していきます。したがって2階の柱や壁の位置と1階の柱や壁の位置がなるべく一致していた方が安全です。
熊本地震の後に「壁の直下率」という言葉を耳にされた方もいらっしゃると思います。まさに2階と1階の壁の一致率のことです。熊本地震では、直下率の低い建物は、より大きな被害を受けていることが実証されました。もしも2階と1階の壁の位置がずれていたら、柱や壁を増設したり、天井面を補強したりして1階の柱や壁に力を流してあげるといった工夫が必要です。このあたりの力の流れを考えずに、平気で柱や壁を抜いているリフォームを見かけることがあります。ワンルームという言葉に踊らされてはいけません。大きな梁を使ったとしても経年変化でたわみが生じますし、その場合でもスムーズに力が流れるかどうかを検証することが大切です。柱や壁を増やしてもそれをうまく生かして使いやすいリフォームが提案できるかどうか。そこが設計者の腕の見せ所ともいえるのです。